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神戸地方裁判所姫路支部 平成4年(ワ)790号 判決 1997年5月27日

原告

神崎勇

外三名

右原告ら訴訟代理人弁護士

吉川武英

吉田竜一

被告

書写ニューセンター事業協同組合

右代表者代表理事

大津英幸

右訴訟代理人弁護士

大野康平

大野町子

小田幸児

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、別紙目録(一)記載の建物の別紙図面(一)表示の通路部分について、被告が設置した仕切壁等を除去し、別紙目録(一〇)記載の材料及び仕様によって復旧工事をせよ。

二  被告は原告神崎勇(以下「原告神崎」という。)に対し、平成五年八月一日から第一項の復旧工事完了までの間、月額一〇万円の割合による金員を支払え。

三  被告は原告中島照一(以下「原告中島」という。)、原告山本正善(以下「原告山本」という。)及び原告本郷市幸(以下「原告本郷」という。)に対し、平成四年八月二七日から第一項の復旧工事完了までの間、各自日額一万円の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

従来各区分所有者が専有部分を対面式の小売店舗等として使用し全体として共同市場の形態となっていた区分所有建物につき、その内部構造がオープンフロアー(スーパーマーケット)形式に大規模改修された際、これに反対する区分所有者らは建物の一画において従来どおりの店舗形式で営業を継続することとなったが、その一画に面した建物内通路に仕切壁が設けられ、オープンフロアー部分との間を完全に遮断された上、通路の幅も右仕切壁によって従来より狭められてしまった。本件は、右反対派区分所有者らが、推進派の区分所有者らによって右改修の際設立された事業協同組合に対し、仕切壁を撤去して従来どおりの通路幅を回復する工事の実施と、通路の狭隘化によって被った損害の賠償を請求するものである。

一  前提となる事実(認定根拠については末尾に括弧書きで記す。)

1  別紙目録(一)記載の建物(以下「本件建物」という。)は、浪速産業株式会社(以下「浪速産業」という。)が昭和五〇年一二月に市場用建物として建設し、これを区分して分譲方式、賃貸方式を混合してテナントを募集したものであり、各専有部分の建物が一階三〇平方メートルないし九〇平方メートル程度の店舗付き住宅で構成され、全体として共同市場として機能していた。

本件建物とその敷地の所有関係は区分所有となっており、浪速産業の所有のまま残っている部分(賃貸部分)と分譲により各購入者の名義となっているものが混在している。

本件建物における市場は、同年一二月一二日に「書写ニューセンター」の名称でオープンしたが、同時に書写ニューセンター商人会(以下「商人会」という。)の結成総会が開催された。

(以下の各事実は争いがない。)。

2  原告らは、本件建物のうち別紙目録(二)ないし(五)記載の各専有部分を所有し、かつ、本件建物の敷地の底地である別紙目録(六)ないし(九)記載の土地をそれぞれ所有している(家屋番号及び地番が一〇一九番四二〇の各物件が原告神崎、以下、同番四二六が原告中島、同番四二五が原告山本、同番四二四が原告本郷の各所有物件である。甲第八の一ないし三、第九ないし第一一、第一三ないし第一五)。

そして、原告神崎はその専有部分を賃貸していたが、原告中島は中島食品の屋号でホルモン焼きの材料店(実質的経営は息子の中島晴男が行っていた。)を、原告山本は山本鮮魚店の屋号で魚屋を、原告本郷は夢前屋の屋号で漬物屋をそれぞれ専有部分で経営していた(屋号については乙第一六、その余の事実は争いがない。)。

3  被告は本件建物内で営業していた一部の商人らによって平成四年八月一八日に設立登記された事業協同組合である(争いがない。)。

4  本件建物内には従来別紙図面(二)のとおり南北に一筋、東西に二筋の通路(東西の通路はいずれも幅3.6メートルであった。)が設置されていたところ、被告は、原告ら所有物件の前面通路(以下「本件通路」という。)の2.2メートル幅を除き、本件建物内の既存通路をすべて廃止し、本件建物の約四分の三の部分を一個の店舗としてスーパーマーケット形式の小売業を展開しようと企画し、被告に区分所有権がない区分所有者から賃借し、平成四年八月下旬から店舗改造工事に着手した(争いがない。)。

5  右工事に至った背景は次のとおりである。

本件市場は、オープン後ほぼ平常に推移してきたが、数年前より近辺に大手スーパー業者の中小店舗が進出し、客数、売上の減少傾向が出始め、更に神戸灘生協の出店計画まで噂され(灘生協は平成三年秋に現実に進出した。)たため、平成二年春の商人会総会において、事態の打開と近代化に向けた方針を全員一致で採択し、本件改修事業に向けての取組みが開始された。

そして、平成三年二月五日、商人会は商業コーディネート福井寛之事務所(以下「福井事務所」という。)との間で、「書写ニューセンター活性計画化事業」についての企画・立案・推進業務等につき業務委託契約を締結し、以後福井事務所による公共団体との連携を含む指導に基づいて計画を推進してきた。

(以上の事実は争いがない。)

二  争点

1  本件通路が建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)上の共用部分といえるか。

(原告らの主張)

区分所有法四条一項は、数個の専有部分に通ずる廊下又は階段その他構造上区分所有者の全部又はその一部の共用に供されるべき建物の部分を共用部分としている。本件通路部分は各区分所有者が出入口に到達するまでの共用の通路として使用され、また、建物全体が共同市場として構成されている関係上、来店した顧客の通路として利用されているものであって、同法にいう廊下に他ならない。これが共用の廊下であることは、これをすべて廃止してしまえば出入口のない区分所有者が続出することからも明らかである。

(被告らの主張)

建物と敷地の関係については、各区分所有者の宅地上に専有部分が存在するが、店舗の前面部分は幅員3.6メートルの通路となっており、その二分の一である1.8メートルまでが対面する各所有者によって区分所有されている。

土地の所有関係は分有で区分所有法二二条の適用はない。本件通路は、各区分所有者によって別々に所有されているだけで、あくまで土地であって建物の共用部分でもなく、区分所有法五条一項にいう規約による建物敷地でもないから、同法一七条一、二項の多数決議等の適用対象とはならない。

2  本件で平成四年七月一七日に開催された「書写ニューセンター商人・地権者合同総会」(以下「本件合同総会」という。)が区分所有法上の集会といえるか。

(原告らの主張)

区分所有建物において共用部分に変更を加えるときは、区分所有法一七条一項により区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議が必要である。

そのため、当時の被告の代表理事でありかつ本件建物の区分所有者である渡部泰司は、平成四年七月一七日、本件建物の区分所有者と商人会の合同総会なるものを開催し、右総会において法定の要件以上の賛成を得たとして前記改造工事に着手した。

(被告らの主張)

本件建物の区分所有に関しては、区分所有法の予定している規約は制定されておらず、管理者の選任もされず、そもそも同法四七条、三条の管理組合法人ないしこれに準じる団体も構成されていない。

3  本件集会決議の存否及び効力

(原告らの主張)

(1) 総会招集の通知は会日より少なくとも一週間前までに各区分所有者に発しなければならない(区分所有法三五条一項)が、本件合同総会の通知が配布されたのは、総会当日の三日前にすぎないから、招集手続に瑕疵がある。

(二) また、集会の招集通知をする場合において、会議の目的たる事項が同一七条一項に規定する決議事項であるときは、会議の目的たる事項(議案)だけでなく、議案の要領も通知しなければならない(同法三五条一項、五項)。そして集会においてはあらかじめ通知した事項についてのみ決議することが許される(同法三七条一項)。

しかるに、渡部らが作成した本件合同総会の招集通知には、その議題として「書写ニューセンター活性化事業計画に係る案件」とあるのみで、本件通路を縮小することについては全く議題とされていない。そればかりか、議案の要領も何ら通知されていない。

したがって、本件合同総会で、本件通路幅の縮小というあらかじめ通知されない事項について決議されたのは、決議方法に重大な瑕疵があることになる。

(三) さらに、総会当日配布された図面を見ても本件通路が縮小されていることは判然とせず、本件合同総会で議長を務めた渡部泰司からも何らの説明もされず、むしろ、逆に本件通路がそのままの状態であると説明し、そのまま集会参加者の質疑、意見陳述すら許さずに総会決議がなされたものである。

なお、被告は、右総会に先立つ平成四年五月一四日の商人会の席上で福井が通路の幅員が現状より狭くなる旨説明したと主張するが、この日開催されたのは役員会であり、原告らは出席していない。

(四) よって、本件合同総会において本件通路幅の縮小についての決議は存在せず、仮に存在しても重大な瑕疵があり無効である。

(被告らの主張)

平成四年五月二日から六日にかけて、福井事務所は、改めて個人ヒアリングを実施した。そして、同月一四日、商人会の席上で本件通路に関する質問が出された際、福井寛之は、①商店街とワンフロアーの間に間仕切りを設置すること、②その下部は壁とし、上部の一部は耐火ガラスとなること、③通路の幅員は現状よりかなり狭くなることの三点を具体的に説明した。

その後、同年七月一七日、本件合同総会が開催された。同総会では、第一号議案として「書写ニューセンター活性化事業に伴う計画の実施と施設改革について」が審議され、席上でその実施計画案が全員に配布され、福井事務所の担当責任者である西川二夫が本件通路幅が全体として現況より狭くなることやレイアウトの内容、費用負担関係などにつき約二〇分間にわたり説明した上、表決を取り、圧倒的多数により賛成可決された。

本件建物に関しては、区分所有法の予定している議決手続がそのまま取られるわけではないことは前記1、2のとおりである。しかし、団体法上の条理に照らせば区分所有法に準じた手順を踏むことが望ましいと考えられることから本件合同総会を開催したのであり、その手順としては同法の内容どおりに履践することが望ましいであろうが、任意に開催する総会としては被告が実践した程度の手順によることで十分である。

原告らは、司会者が参加者全員の意見を述べる機会を奪ったかのような主張をするが、参加者は事実経過及び問題点を熟知していることから、司会者の希望として蒸し返しの議論は謹んで欲しい旨を表明したにとどまり、決して全員から発言の機会を奪ったというものではない。

また、招集通知に記載すべき「会議の目的たる事項」や「議案の要領」に関する原告らの主張については、区分所有法の規定をそのまま適用している点で基本的に誤っている他、株主総会の通知においても最小限「取締役何名選(解)任の件」とする程度で可とする扱いもされており、細部についてまで通知や説明を要求することは望ましくないと考えられる。

いずれにしても、原告らは、多数回にわたるヒアリング、総会、事後の個別面談において、本件通路が二メートル二〇の幅員になることを熟知了承し、その余の事項をもって交渉対象としていたのである。

4  本件通路の幅員を狭めることについての原告らの合意の要否

(原告らの主張)

区分所有法一七条二項では、共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすときは、当該専有部分の所有者の同意を得ることが要求されている。そして、本件通路幅の縮小が原告らの商業活動に著しい影響を与えることは歴然としており、原告らの同意を得ずに、専有部分に特別の影響を及ぼすような共有部分の変更をすることは許されない。

(被告らの主張)

本件工事については、その施工部分が道路幅員の二分の一の範囲を超えて当該区分所有者の宅地に及ばない限り、その者の同意ないし承諾は必要がないところ、被告が実施した工事は1.8メートルよりも更に譲り、原告ら方から2.2メートル離れた部分に仕切を設置するというもので何ら問題がない。

また、旧市場の「書写ニューセンター」は時代の流れ、顧客のニーズ、大型店舗の近隣出店等の事態により地盤沈下が著明で、そのままでは閉鎖せざるを得ない不振を呈しつつあった。そうした状況下で商人ら内部における徹底した討議に基づき計画したのが本件活性化事業であった。しかるに、ごく一部の商人である原告らが自己の客筋ないし都合のみの見地から事業に協力せず様々の妨害的言動に出たのである。区分所有法一七条二項の「特別の影響」の解釈に当たっては、それを主張する者の権利行使が濫用に該当する場合があることを十分に踏まえて健全な社会常識によって慎重に解釈すべきであり、更にこれによって区分所有建物の工事について原状回復を認めるためには、事業全体の経過や規模、多数賛成者との利害調整、代替措置の有無等多数の事情を熟慮すべきである。

5  原告らの損害

(原告らの主張)

平成四年七月一日、被告は、原告神崎の専有部分につき、期間は改修工事着手時期から向こう三年間、賃料月額一〇万一三二八円の約定で賃貸借契約を締結した。その後、被告は、原告神崎に対し平成五年七月末日まで月額一〇万円の賃料を支払ってきたが、同月分以降の賃料の支払いをしない。原告神崎の専有部分は、被告が本件通路を一部廃止したことにより営業用店舗物件としての借り手がなくなり、原告神崎は月額一〇万円の賃料収入を得ることができない。

また、原告神崎を除くその余の原告らは、本件通路幅の縮小によって、各自が経営する店舗の売上の減少、商品搬入の障害等によって一日に一万円を下らない損害を各自被っている。

原告らが右のような被害を被っている原因が本件通路幅の縮小にあることは明らかであり、原告らの右被害の回復を図ろうと思えば、本件通路の幅員を元に戻すこと、すなわち本件通路の幅員を縮小している仕切壁等を除去すること以外にはあり得ない。

(被告の主張)

原告神崎は、被告との間で賃料月額一〇万一三二八円とする店舗の賃貸借契約を締結しながら、これを被告に使用させるに必要な行為をせず、一年にわたり一方的に賃料を収受するだけに終始した。原告神崎は、被告がその店舗を倉庫用に使うつもりであるが賃料額は店舗なみに支払うことを理解し承諾していたのである。そうしておきながら、目的店舗内には元惣菜店の陳列ケースを置いたままこれを撤去しなかった。一年にもわたりこの状態が続いたので、被告はやむなくその使用をあきらめ原告神崎に返還したのである。

そもそも原告らの求める復旧工事は①オープン後既に数年を経て定着した被告の営業様式及び地域の顧客に対する半公共的サービスの提供、②消防法上の規制、③従来の商人会における圧倒的多数商人の営業権保護等の観点に照らし、社会通念上不能の作為を求めるものであって認容されるものではない。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

1  認定事実

証拠(甲第一、第二の一、二、第三、乙第四、第三一の二)によると、次の各事実を認めることができる。

(一) 本件建物の登記上、一階床面積は、本件通路他二本の店舗間通路部分を含めた面積で表示されている。そして、店舗間通路の上には天井が存在して各専有部分を緊結し、二階部分の更に上に建物全体を覆う形での大屋根が設けられて、本件建物につき一個の建物としての外観を取らせていた。

(二) また、本件改修工事前の本件建物二階部分は、一階店舗部分の上部にそれと同一面積の居住部分(広いところで三DK、狭いところで一Kだが、ほとんどは二K程度のスペースである。)が存在し、各居住部分へは一階各店舗部分からそれぞれ階段で出入りするようになっており、二階各居住部分の間を結ぶ通路は存在しなかった。そのため、本件建物一階通路部分の上には二階部分は存在せず、登記上二階床面積は、一階床面積から一階通路部分の面積を差し引いたものであった。

(三) それが本件改修工事によって、本件建物二階部分は、改修前に一階通路であった部分の上に二階廊下部分を設置し、商店街形式で従来どおり営業する北側ひと並びの区間(以下「商店街部分」という。)は二階居住部分の構造に手を付けないものの、ワンフロアー部分は従来存した各店舗から二階へ上がる階段を廃止し、代りに本件建物南東と西側の二カ所に二階への昇降階段を設置して、南側の東西に走る廊下(ワンフロアー部分上部の廊下)部分から各居住部分への出入口を設け、ワンフロアー部分上部に居住する者は右二カ所の階段から二階廊下部分を通って出入りする構造となった。

2  当裁判所の判断

右認定事実に前記第二の一1、2、4の各事実を総合すると、

(一) まず、本件改修前の状態において、本件建物は本件通路部分を含め全体として一個の建物としての構造を有し、登記上もそれを前提とした表示がされていた。

(二) また、本件改修工事における特に二階部分の改修内容(前記1(三))も、従来の一階通路を二階へ移設したのと同様のものとなっており、従来の一階通路部分が建物の一部であることを念頭に置いたものとなっている。

といえる。

これに対し、被告は、本件通路は各区分所有者によって別々に所有(分有)されているだけであり、本件通路はあくまで土地であって建物の共有部分ではないと主張するが、本件建物全体が区分所有の対象となる一棟の建物であることは被告も認めるところである。また、分有とは建物敷地につき分筆がされ各筆ごとに区分所有者が単独の所有権を有する形態を意味するところ、分有形式でも土地の所有関係と建物の区分所有関係は別個に切り離して観念することができるのであるから(たとえば二筆の土地の各所有者が両土地にまたがって建築した建物の一階部分と二階部分をそれぞれ区分所有できる。)、改修前の本件建物において、各店舗部分(専有部分)とその敷地部分が同一人の所有に帰属し、本件店舗前通路部分が各自の敷地の一部の上に存在していたからといって、本件通路を土地所有関係のみでとらえることは相当とは言い難い。

したがって、本件通路は、専有部分以外の建物部分という意味で、構造上区分所有者の共用に供される法定共用部分というべきである。

二  争点2について

1  証拠(甲第五、第六、乙第七、証人高月正照、同中島晴男)及び弁論の全趣旨によると、平成四年七月一七日午後七時三〇分から、書写ニューセンター事務所二階会議室において、商人会に所属する者二九名のうち二七名(委任状出席五名を含む。)と本件建物の区分所有者二九名のうち二八名(委任状出席九名を含む。)が出席して、「書写ニューセンター商人・地権者合同総会」なる名称で会議が開催されたこと、また、右本件合同総会には区分所有者である浪速産業の代表取締役も出席し、区分所有者で欠席したのは、かねてより退店の意思表明をしていたローズクリーニングこと池澤一郎一名のみであったことが認められる。

2  ところで、区分所有法三条によると「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し」と規定されているが、右条文上、複数の区分所有者がいれば当然に管理組合が成立することになり、管理組合は団体としての結成行為を必要とするものではない。そして、右1で認定した事実によると、本件合同総会には本件建物区分所有者二九名のうち委任状提出者も含めると二八名が出席し決議に参加していることになり、本件合同総会を本件建物組合による区分所有法上の集会とみなすのに何ら妨げないというべきである。

三  争点3について

1  認定事実

証拠(甲第五、第六、検甲第一、乙第二、第四、第五、第七、第八、第一一の一、二、第一二の一、二、第一三、第一四、第一六、第二三ないし第三〇、第四〇、第四一、証人福井、同恒藤堯、同高月、同中島、原告神崎)及び弁論の全趣旨によると、次の各事実を認めることができる。

(一) 商人会は、平成三年二月五日、福井事務所との間で正式に書写ニューセンター活性近代化計画立案、推進業務等の業務委託契約を締結した。福井事務所は、その後平成三年一二月頃までの間に、商圏リサーチ調査や本件市場の各小売店主の意識調査、第一回個別ヒアリング等の調査を繰り返し、その結果等に基づいてセルフ化(従来の小売店舗の壁を除去して全てワンフロアーとし、スーパーマーケットの方式とする。)を導入した改修計画を企画立案し、平成三年一二月二二日の商人会において各組合員に対し、基本計画案の報告を行った。

右報告を受けた商人会では、セルフ形態(ワンフロアー方式)を取り入れて業態変更を行うことに賛成する者と業態は現状を維持したままより努力を図るべきとする者との意見対立が鮮明となり、原状維持派の会員の中には福井事務所が主導権を握る形で計画を立案すること自体に対する反発も生じていた。

(二) そこで、商人会では、同年三月一日の総会で活性化事業推進の決定を行い、内部でワンフロアー方式、一部改修、現状維持の三つの検討部会を組織することとし、同月一〇日から同月一二日までの間討議を繰り返したが、原状維持の主張をする会員は部会に参加しようとしなかったため、三月下旬以降は改めてワンフロアー方式、一部改修の二案に限定して討議を進めることにした。

原告らのうち商人会会員でない原告神崎を除く三名は、いずれも一部改修部会(構成数一一名)に所属し、同年三月二四日から討論を進めようとしたが、初回の出席数は八名にとどまり、しかもその約半数が次回から部会に出席する意思のないことを表明し、同年四月一一日に開催された第二回部会では出席者五名のうちの二名がワンフロアー方式賛同に意見を変更するなど、まとまりがつかない状態となった。

そのため、同年四月二六日の商人会総会で、一部改修部会はワンフロアー部会に進行を委ねる形で解散することを正式決定し、今後はワンフロアー方式主導の形で活性化の方向を進めるが、他方、反対者の意見も併せて討議を続けるとの方針を確認し、各会員の最終意見を聞くための福井事務所による個人ヒアリングを同年五月二日から六日にかけて実施することとなった。

なお、これに先立ち同年四月一七日に開催された商人会役員会において、福井事務所に対して、同年五月一五日を目途に詳細なレイアウト及び予算書の作成が依頼された。

(三) 同年五月一四日、商人会役員会の席上で、福井事務所から五月上旬の個人ヒアリングの結果及び店舗レイアウト最終案(ワンフロアー形式と商店街形式の併用)についての説明が行われた。

そして、同月二六日、ワンフロアー部会の席上で、福井事務所から会員に対する右ヒアリング結果と店舗レイアウト最終案についての前記役員会と同様の説明がされ、今後の進め方について、店舗所有無営業者及び浪速産業との交渉並びに退店希望者を含む不賛同者との交渉にも入る旨の説明がされたが、その際福井から、商店街部分については店舗の前の通路が従来の三、五メートル幅から2.5メートル幅に狭くなること、商店街部分とワンフロアー部分の間には間仕切りが入り、その上部が一部耐火ガラスになることなどが説明された。

さらに、同年六月六日のワンフロアー部会の席上で、福井事務所の西川二夫が新しい売場のレイアウト及び商店街部分の店舗配置について、図面(別紙図面一)を回覧しながら会員に説明を行った。

なお、ワンフロアー部会の会合は、会合を開く度にその日時場所が全会員に通知されており、ワンフロアー推進派でなくとも関心のある者は誰でも参加できるものであった。

(四) その後、商人会役員と福井事務所の担当者は、同年九日から一一日にかけて、ワンフロアー反対派の会員らに対し別紙図面一を示しながら個別に説明を行い、その際、商店街部分とワンフロアー部分の間には間仕切りが入ること、本件通路の幅が二メートル前後になるとの説明も行われた。また、商人会会員でない原告神崎に対しても同様の説明を行った。

同年七月七日、恒藤が仲介する形で、ワンフロアー推進派の渡部、大津と反対派の原告中島、原告山本及び蓼原が会談を行ったが、その席で原告中島らは渡部らに対し、新しい店舗配置案では本件通路が従来より狭くなることを前提にして、通路幅はそのままにし通路両端等に壁などを設けないようにしてほしいとの要望を出した。これに対し、渡部らは原告らの要望をワンフロアー推進派の方で検討し、同月一〇日に原告らとの再会合を持ち、その席上で回答する旨答えた。しかし、原告らと渡部らとの会合は結局再び持たれることなく、渡部らからの回答もないままに終わった。

(五) 同年七月一七日午後七時三六分より、書写ニューセンター事務所二階会議室で、本件合同総会が開催された。

本件合同総会は、改修工事着手に先立って区分所有法上の集会決議も行っておいた方が望ましいとする福井事務所からの勧告によって、当時の商人会会長である高月が招集したものである。その開催通知は同月一四日に回覧の形式で会員らに配布されたが、その内容としては、本件合同総会開催の日時場所の他、議題として、書写ニューセンター活性近代化事業計画に係る案件という記載がされていた。

原告神崎は右総会に欠席したが、高月を代理人として、書写ニューセンター活性近代化事業計画に係る事業決定に同意するとともに、本件合同総会の諸議決権に関する一切の件について権限を委任するという内容の委任状を提出した。その他の原告らはいずれも本件合同総会に出席した。区分所有者のうちで本件合同総会に欠席したのは、かねて退店の意思表明をしてワンフロアー部会などにも全く出席しようとしなかったローズクリーニングこと池澤一郎一名のみであり、他の区分所有者はすべて本件合同総会に出席しあるいは委任状を提出した。

(六) 本件合同総会においては、まず、議長として渡部泰司を選任し、渡部は挨拶の中で議事進行の都合上意見表明は差し控えて欲しい旨を述べた。そして出席者の点呼、委任状の内容の確認に続いて、福井事務所の西川から、出席者各自に配布された別紙図面二に基づいて、ワンフロアー形式と商店街形式の併用という形で改修後の本件建物の店舗配置を行うことの説明がされた。その中で、西川は、商店街部分前通路の東西両端のドアは従来どおりとすること、ワンフロアーのセルフゾーンと専門店ゾーンとの間の位置に、商店街部分とワンフロアー部分を結ぶ約二メートル幅の通路を設けること、右図面(別紙図面二)は基本計画案であって確定決定した図面ではなく修正もあり得る旨を述べた。

その後、ワンフロアーと商店街の併用形式での改修を行うことの賛否を問う記名投票が、商人会会員、地権者の順でそれぞれについて行われた。投票の結果は商人会会員、地権者のいずれの投票についても、反対は原告中島、原告山本、原告本郷と蓼原健児の四名であり、委任状提出者のうち恒藤堯のみが白紙投票(無効票)として扱われ、その他の出席者及び委任状提出者(原告神崎も含む。)はすべて賛成票として扱われた(岩井語については賛否いずれか数の多い方に投票するという内容だったので賛成票扱いとなった。)。その結果、出席商人会会員及び地権者のいずれも八五パーセント(小数点以下四捨五入)が福井事務所提案の改修案に賛成したことになった。次に、各地権者の共有部分(床面積)に従って賛否の割合が計算され、原告神崎を除く原告三名と蓼原が反対、恒藤とローズクリーニングこと池澤一郎(総会に欠席)が無効、その余の者が賛成として、持分割合でも全体の87.17パーセントが賛成したという結果になった。

2  右認定事実に基づいて、原告ら主張の本件合同総会の手続的瑕疵の存否及び効力について検討する。

(一) 原告らは、まず、総会招集通知が総会開催日の三日前に配布された点で瑕疵がある旨主張する。たしかに、前記1(五)のとおり本件合同総会の通知は開催日の三日前である平成四年七月一四日に商人会会員らに配布されており、これは会日より少なくとも一週間前に発しなければならないとする区分所有法三五条一項本文に合致するものではない。

しかしながら、商人会会員でない原告神崎が本件合同総会に関して提出した委任状(乙第八号証)の日付は平成四年七月六日付となっており、同人が本件合同総会開催の連絡を受けたのはその頃と考えられること、前記(四)のとおりワンフロアー推進派の渡部らから原告らの要望に対する回答を平成四年七月一〇までにする旨予定されていながら期日までに何の回答もされず、これに対して原告らも再度の回答要求などをしていないこと、本件合同総会に浪速産業の代表取締役も出席していたことなどを考慮すると、本件合同総会は直前になって突然に決められたものではなく、関係者にはより早い時期にその開催が事実上連絡されていたことが窺える。

そして、本件建物区分所有者のうちで本件合同総会に欠席したのはかねてから退店の意思表明をしていた一名のみであり、他の区分所有者はすべて本件合同総会に出席して決議に参加していることなども併せ考慮すると、原告ら主張の右手続違背は本件合同総会の効力に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。

(二) 次に原告らは、本件合同総会の招集通知には、本件通路を縮小することについては全く議題として記載されていないばかりか、議案の要領が何ら通知されていないとして、右総会決議は区分所有法三五条一項、五項、三七条一項に違反する旨主張する。

しかし、本件合同総会の主要な議題は、本件建物に関し商店街形式とワンフロアー形式の併用による改修工事を行うことの賛否を問うことであり、本件通路幅の縮小はそのうちのごく部分的な事項にすぎない。右議題に関して平成三年から本件合同総会に至るまで商人会内部等で様々な事項について、様々な観点から説明、検討ないし討議が繰り返されてきたことは前記1で認定したとおりであり、本件通路幅等右議題に包摂される諸々の事項について、本件合同総会で改めて事細かに具体的討論をすることは、限られた時間内では不可能に近いといわざるを得ない。

また、右のような経過に鑑みれば、前記招集通知の「書写ニューセンター活性化事業計画に係る案件」という議題の記載内容のみで商人会会員及び区分所有者は本件合同総会における議事内容を十分把握できる状況にあったとみるべきである。したがって、本件合同総会の決議が区分所有法三五条一項、五項、三七条一項に違反する旨の原告らの主張はこれを採用することができない。

(三) また、原告らは、本件通路幅の縮小については本件合同総会の席上で何ら説明がされず、逆に本件通路がそのままの状態であると説明し、そのまま集会参加者の質疑、意見陳述すら許さずに総会決議がなされたと主張する。

しかしながら、前記1(六)のとおり、本件合同総会では本件通路の幅に関しては全く言及されておらず、原告ら主張のような本件通路を従前どおりの状態にするとの意味の説明もまた行われていないのである。また、議長をつとめた渡部が議事進行に先立って各自の意見表明は差し控えてほしい旨釘をさしたことは認められるものの、右渡部の言動は前記のとおり過去一年以上にわたって商人会内部で繰り広げられた意見対立が本件合同総会の席上で蒸し返され議事が紛糾することのないよう注意を促したものと考えられるのであり、その他、本件合同総会の決議に至るまでの議事進行に不当な点は何ら見出すことはできない。したがって、この点にかんする原告らの主張も採用することはできない。

(四)  よって、本件合同総会決議は、(一)のように区分所有法所定の手続に則っていない点は若干見受けられるにしても、それが直ちに決議の効力に影響を及ぼすものとは考えられず、全体として有効に成立したものと解するのが相当である。

四  争点4について

1  認定事実

証拠(検甲第一ないし第一三、乙第四、第七、第一八ないし第二一、第二三、第三一の一ないし五、第三二、第三三、第三五の一ないし六、検乙第一ないし第三六、証人福井、同中島、同高月)及び弁論の全趣旨によると、本件合同総会後の経過として次の各事実が認められる。

(一) 平成四年八月七日、本件通路に関し改修工事内容の一部変更がされた。その内容は、本件通路幅を2.2メートルとし、商店街部分とワンフロアー部分を結ぶ通路を設けない(別紙図面三参照)、間仕切りに耐火ガラスの設置をしないで最上端まで耐火壁とするというものであった。このように変更されたのはスプリンクラー設置が必要になるなど消防法上の要請に基づく経費が増大するのを抑制するためと、商店街部分とワンフロアー部分を結ぶ通路を設けるとセルフゾーンの買い物についてポスレジによる精算に支障を来すこと等の理由によるものであった。

(二) 平成四年八月一五日、被告と三洋工業株式会社その他の業者との間で本件建物改修工事請負契約やマーケット部分におけるショーケースや什器備品の購入契約が締結された。そして同年八月一七日に商人会が解散して書写ニューセンターは閉店となり、その頃から本件建物改修工事が着工された。

(三) これに先立つ平成四年八月七日、商人会事務所において、福井事務所と原告山本、原告本郷、中島晴男の三名との間で会合が持たれ、商店街部分へ移設する商人の名称、場所の説明、原告神崎を除く原告三名らが営業を行うのは従前の場所であること、工事スケジュールの概要の説明とともに屋根修理工事等の費用に関する協力金の負担についての話し合いが行われた。そして、さらに原告らの要請により、同月一七日、原告代理人吉田弁護士の事務所において、同弁護士同席の下、福井が中島晴男と原告山本に対し、資料に基づいて先に七日に説明した事項のより詳細な説明と、協力金の負担要請及び本件通路幅が2.2メートルとなることなどの説明を行った。

(四) 同年一〇月二五日までには本件通路部分につき天井まで届く間仕切りと東西両端の出入口の設置、間仕切りの美粧工事がすべて完了した。

(五) 平成四年一一月五日「書写ショッピングタウンラルゴ」の竣工式が行われた。

(六) 平成八年八月一五日、姫路西消防署による消防設備等の検査がされ、同消防署から被告に、消防法上の基準に適合していることを証明する検査済証が交付された。

2  当裁判所の判断

原告らは、本件通路幅の縮小が原告らの商業活動に著しい影響を与えることは明らかで、区分所有法一七条二項の共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすときに該当し、当該専有部分の所有者である原告らの同意を得ずに専有部分に特別の影響を及ぼすような共有部分の変更をすることは許されないと主張する。そして、前記三1(六)のとおり原告神崎を除く原告三名は、本件合同総会において本件建物の改修について反対の意思表明をしていることから、本件建物改修が同人らの承諾を必要とする「専有部分の使用に特別の影響を及ぼすとき」に該当するかが問題となる(原告神崎については、前記三1(五)のとおり委任によって本件改修に賛成票を投じているから、同人の同意は問題とならない。なお、原告神崎が本件合同総会前に福井事務所らから事前に本件通路幅の縮小について説明を受けていたことは前記三1(四)のとおりであり、これに反する原告神崎の供述部分を直ちに採用することはできない。)。

ところで「特別の影響を及ぼす」場合か否かの判断に当たっては、共有部分の変更又はそのための工事の必要性、合理性と、共用部分を変更することによって当該区分所有者の受ける不利益とを比較衡量し、右不利益が受忍すべき程度を超えるか否かを基準に検討すべきである。そして本件の場合、前記第二の一5、第三の三1の事実経過に照らすと、本件通路部分を含め本件建物を改修すべき必要性、合理性が存したことは明白といえる。また、本件合同総会決議後に行われた前記四1(一)の改修内容の変更についても、証拠上認定し得る理由からするとやむをえなかったものと認められる。

他方、本件改修工事の結果、前記のとおり商店街部分とワンフロアー部分との間に最上端まで耐火壁の間仕切が設置され、右間仕切により本件通路幅は2.2メートルと従前の三分の二以下となり、しかも商店街部分とワンフロアー部分を結ぶ通路を設けられず商店街部分はワンフロアー部分と完全に遮断されることとなったのであるから、本件改修工事が原告らの店舗営業に来客数の減少等の不利益な影響を与えることは否定できない。しかしながら、証人中島晴男の証言によると、同人の経営する店舗の売上は工事期間中極端に低下したものの、工事完成後ラルゴが新規再開した当初はある程度回復し、更にその後徐々に低下してきているというのであり、本件改修工事の結果が改修後の原告ら店舗の売上に直接的に影響しているとまで認定することはできない。

したがって、本件改修工事が区分所有者である原告らの受忍限度を超える程度にまで「特別の影響」を及ぼしているとは認められないから、本件改修工事につき原告らの同意は必要でないというべきである。

なお、前記本件通路改修工事に関する具体的内容は本件合同総会決議後に決められたものであり、しかも商店街部分とワンフロアー部分を結ぶ通路の不設置など右総会の際の説明内容と異なるものも見受けられるが、前記三1(六)のとおり右総会の際の説明でも当日配布された図面の案はあくまで基本計画案であって、確定したものではないとの留保が付されていたのであり、かつ、前記変更の経過、理由及び本件合同総会後の原告らに対する説明状況等に徴すると、本件通路改修が本件合同総会決議を逸脱したものと解することはできない。

五  結論

以上の次第で、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないこととなる。

(裁判官西井和徒)

別紙別紙目録<省略>

別紙別紙図面<省略>

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